わが国では、「血の付いたガーゼ」は感染性廃棄物として取り扱われることが多い。それがわが国の廃棄物処理の常識となっている。ところが、欧米では「血の付いたガーゼ」は一般廃棄物として処理される。この違いはどこから来るのだろうか?表1に、わが国の感染性廃棄物マニュアル:感染性廃棄物の判断基準の変更点(平成16年改正の前後)1)を示した。改正前では「(5)
その他血液等が付着したもの」とあるが、「感染性の危険がほとんどないと判断されたときには、感染性とする必要はない」となっている。改正後には、この項目は削除された。しかし逆に、血液付着物は「感染のおそれがあると判断される場合は感染性廃棄物とする」となっている。このように、わが国のマニュアルは血液付着物に対して、柔軟な対応となっているにもかかわらず、血液付着物=感染性廃棄物となってしまっているのだろうか?実はこのマニュアル2)の冒頭に出てくる「用語の定義とその解説」(表2)に問題があると筆者は考える(この定義は改正前後で変わっていない)。これに従えば、血液の付着したガーゼは、自動的に感染性廃棄物となってしまう。この「用語の定義」は見直されるべきである。
では、欧米の事情はどうなっているだろうか?
まず感染対策テキストの感染性廃棄物の項に、次のような記載がある3)。「感染症を引き起こしうる廃棄物のみが、感染性とみなされるべきである。廃棄物が感染性となり、感染症を引き起こすには、いくつかの因子が必要である。菌量、宿主の感受性、病原体の存在と病原性、侵入門戸。ほとんどの場合、このような因子は存在しない。単なる血液、分泌物、病原体、病原体疑いの存在だけで、普通の廃棄物を「感染性廃棄物」とするべきではない」さらに、「フライブルグ市には40,000人の生理の婦人がいるが、年間96,000Lの血液で家庭ゴミと下水を汚染している。大学病院の患者一人一人から毎年2L採血しないとこの量にならない」として、血液付着物=感染性廃棄物として処理することのナンセンスを指摘している。
CDCの環境管理のガイドライン(2003)にも同様の記載がある。「血液、排泄物、分泌物と接触したすべての器具は、潜在的に感染性であるかもしれないが、このような廃棄物をすべて感染性として処理することは、通常、実際的でなく、必要でもない」4)。米国CDCのガイドラインで感染性のおそれから規制の対象となる医療廃棄物は表のとおりで、これはわが国のものと同じである。ただ、血液の項では、bulk
bloodとなっている。bulkとは「大量」「塊り」を意味しているが、その基準はあるのだろうか? bulk bloodの定義は、米国EPA(環境保護庁)のガイドライン5)に記載されている(表4)。つまり、溢れるほどの血液を含んでいて(saturated)、ポタポタ落ちて(dripping)周りを汚染するおそれのあるものが、感染リスクありと考える。事実、血液が付着して乾燥したものは、もはや液体(湿性)ではないので感染リスクは著明に低下していると考えられる。米国の病棟では"If
it is wet and flows, into the red bag it goes(濡れて流れ落ちるなら、赤バッグへ入れる)" という標語が使われているという。
以上より、筆者の考えをまとめると、
1. 血液、体液等が付着しているだけで、周囲を汚染するおそれのないものは、一般廃棄物として処理してよい。
2. 血液、体液等が多量に付着し、こぼれ落ちて周囲を汚染しそうなものは、感染性廃棄物として処理する。
1) 環境省:報道発表資料、感染性廃棄物処理マニュアルの改正について、平成16年3月16日、http://www.env.go.jp/press/press.php3?serial=4791
2) 環境省、廃棄物処理法に基づく感染性廃棄物処理マニュアルhttp://www.pref.osaka.jp/waste/sanpai/pdf/manual01.PDF
3) Daschner F, The hospital and pollution, in Prevention and Control of Nosocomial
Infections, Willams & Wilkins, 1993
4) CDC, Guidelines for Environmental Infection Control in Health-Care Facilities,
2003. http://www.cdc.gov/ncidod/hip/enviro/Enviro_guide_03.pdf
5) EPA, Waste characterization, Model Guidelines for State Medical Waste Management,
1992
http://www.epa.gov/epaoswer/other/medical/mwpdfs/modguidl/2.pdf
1)「廃棄物の形状」、「排出場所」、「感染症の種類」の観点から、医療関係機関等がより客観的に感染性廃棄物を判断できる基準に変更した。
改正後 改正前
感染性廃棄物とは、医療関係機関等から発生する廃棄物で、
1.形状の観点
(1) 血液、血清、血漿及び体液(精液を含む。)(以下「血液等」という。)
(2) 手術等に伴って発生する病理廃棄物
(3) 血液等が付着した鋭利なもの
(4) 病原微生物に関連した試験、検査等に用いられたもの
2.排出場所の観点
感染症病床、結核病床、手術室、緊 急外来室、集中治療室及び検査室において治療、検査等に使用された後、排出されたもの
3. 感染症の種類の観点
(1) 一類、二類、三類感染症、指定感染 症及び新感染症並びに結核の治療、検 査等に使用された後、排出されたもの
(2) 四類及び五類感染症の治療、検査等 に使用された後、排出された医療器材、 ディスポーザブル製品、衛生材料等
通常、医療関係機関等から排出される廃棄物は、「形状」、「排出場所」及び「感染症の種類」の観点から感染性廃棄物の該否について判断できるが、判断できない場合は、血液等その他の付着の程度や付着した廃棄物の形状、性状の違いにより、専門知識を有する者(医師、歯科医師及び獣医師)によって感染のおそれがあると判断される場合は感染性廃棄物とする。
なお、非感染性の廃棄物ナあっても、鋭利なものについては感染性廃棄物と同等の取扱いとする。
(1) 血液、血清、血漿及び体液(精液を含む。)並びに血液製剤(以下「血液等」という。)
(2) 手術等に伴って発生する病理廃棄物
(3) 血液等が付着した鋭利なもの
(4) 病原微生物に関連した試験、検査等 に用いられたもの
(5) その他血液等が付着したもの
(6) 感染症法、結核予防法その他の法律に規定されている疾患等にり患した患者等から発生したもので感染のおそれがあるもの若しくはこれらが付着した又はそのおそれがあるもので(1)〜(5)に該当しないものをいう
血液等の付着の程度や廃棄物の形状、性状の違いにより、感染の危険性には大きな差があると考えられる。 したがって、これら((5)、(6))を排出する場合、専門知識を有する者(医師、歯科医師及
び獣医師)によって感染性の危険がほとんどないと判断されたときには、感染性とする必要はない。
環境省「廃棄物処理法に基づく感染性廃棄物処理マニュアル」(平成4年、16年)
「感染性廃棄物」とは、医療関係機関等から生じ、人が感染し、若しくは感染するおそれのある病原体が含まれ、若しくは付着している廃棄物又はこれらのおそれのある廃棄物をいう。
【解説】
「感染性廃棄物」は、医療行為等により廃棄物となった脱脂綿、ガーゼ、包帯、ギブス、
紙おむつ、注射針、注射筒、輸液点滴セット、体温計、試験管等の検査器具、有機溶剤、血液、臓器・組織等のうち、人が感染し、若しくは感染するおそれのある病原体が含まれ、若しくは付着し、又はこれらのおそれのあるものである。
環境省「廃棄物処理法に基づく感染性廃棄物処理マニュアル」(平成16年)
規制されるべき医療廃棄物のカテゴリー
1) 微生物検査室の廃棄物 (例えば、 菌の培養液や保存菌株)
2) 大量の血液bulk blood、血液製剤、血液・体液検体
3) 病理および解剖の廃棄物
4) 鋭利物 (たとえば、針やメス)
Bulk human blood and blood products. Liquid waste human blood, products of
blood, items saturated and the potential for dripping blood, serum, plasm,
and other blood component.
大量のヒト血液および血液製剤. 液体廃棄物であるヒト血液、血液製剤、血液、血清、血漿、その他の血液成分で飽和されていて、ぽたぽた落ちるおそれのある物品。
EPA, Model Guidelines for State Medical Waste Management, 1992 5)